charming records

ストリップファンが、ときどき本をつくります。

東京レインボープライドへ行って、パレードを歩く(2023)

紆余曲折を経て、はじめて東京レインボープライドへ行き、「Family Pride」としてパレードに参加したときのこと。

東京レインボープライド(TRP)には行かないことにしてたけど、今年はじめて足を踏み入れることにした。友だちが誘ってくれたから。行ってなかったのは、帰省がかぶった、お金がないつらさでふとんから出られない、とかの理由もあったのだけど、近年はHPを見ていて、スポンサーの顔ぶれに大きな資本が動いているのを感じてウッとなり(最後まで東京オリンピックの協賛から降りなかった企業が複数入っているのもあり)、セクシュアリティジェンダーアイデンティティの切実できわめて個人的なことが商用利用されているのでは?とか、あとはよく目にする「Happy Pride !」がどうにも引っかかったりとか。
ストリッパーの黒井ひとみさんがパレードへの参加を表明して間もなく、ストリップ友だちの○ちゃんから一緒に歩こうと誘われた。黒井さんや○ちゃんが参加するのは「Family Pride」というフロートで、同性婚に限らず「色々なかぞくのカタチ」を祝福する趣旨だと知って、これならと気持ちが傾く。自分の関心やポリシーに合ってるし、パレードは公道を歩くから、通行人の目に触れる。どんなかたちであれ、いっしょに暮らしていきたいと思っているひとたちに等しく権利があってほしい。そう望むひとりがここにいると可視化できるのなら参加したい。○ちゃんが声をかけてくれたのもうれしくて、いちど行ってみるならいまだ、と決めた。


パレードで身に着けるものを探しに、虎が飛ぶ雑貨屋へ。ネットでレインボーのアイテムやフラッグを探していたら、いくつか取り扱いが見つかったので。日よけも兼ねて帽子を買おうかと手にとったら、「UNITED LOVE」のロゴつきだった。ひとつひとつのLOVEは当事者だけのものだからUNITEDはそぐわない気がするし、ジェンダーアイデンティティセクシュアリティには必ずしもLOVEが含まれるわけではないので、ここでは何も買わないことにする。結局、当日の装いはぜんぶうちにあったもので、フェミニズム出版社・エトセトラブックスのTシャツ(「etc.voices, etc.books.」 と入っている)、ファミマのPRIDE靴下、大切にしているコムデギャルソン コムデギャルソンのクィアなシルエットのスカート、就活でパンプスの理不尽に怒って無理して買ったDr.マーチンの3ホールでわたしなりの所信と反骨をコーディネイトした(のちに、フードブースで買った串焼きだんごのたれをこぼすことになるのですが)。
目覚ましアプリのセットを忘れ(アプリの起動まではしてたのに…)、朝に予約してた坂本龍一の映画を寝過ごす。待ち合わせにはなんとか間に合う時刻で、パンをかじりながら急いでプラカードをつくった。「あらゆるかたちの家族に権利を」と文字入れし、Adobeのフリー素材にあったレインボーフラッグを背景にして、コンビニで印刷して原宿へ。駅で、○ちゃんから誘い合わせのみんなと集合。共通の友だちの□さん、△ちゃんも来ていた。
会場の代々木公園に入ってすぐ、歩くのも難しいくらいの人ごみ。こういう場を求めて来るひとがこんなにいるものなのか。油断するとすぐはぐれそうで、場慣れしている○ちゃんが先頭に立ち頭上にうちわを掲げ、それを目印についていく。新陳代謝ちゃん(『ストリップは味方。』表紙)作「黒井ひとみ御一行」うちわ! 6色のハートも入ってPRIDE仕様。裏は黒井さんのTwitterプロフィール「生きてるって最高!」で、この場にもぴったりな言葉だ!とうれしくなる。「生きてるって最高!」についてくって、これがもうパレードじゃない?  ○ちゃんはみんなにレインボーフラッグを配ってくれた。Family Prideのスタッフさんからバルーンももらった。

いよいよスタート、陽気な音楽が流れる。Family Prideの方が用意したと思しき大きなスピーカー、台車に載せて押しているのがかっこよかった。フロートと聞いて、テーマパークみたいなあれしか想像できてなかったんだけど、これは地べたからのフェスだね。ちょっとベビーカーに似てるなと眺めていたら、まさにベビーカーもパレードに参加していたとあとから気づく。ベビーカーが車道を晴れ晴れとパレードする。ベビーカーは邪魔なんてことない、どこにどんな状況にいたって正しい。
驚いたのが、沿道に見物人、というか応援してくれるひとがいっぱいいた! 手や旗を振ってくれたり、「Happy Pride !」と呼びかけられたり、差し入れにキャンディを配ってるひとまで。新宿でデモに参加したときの経験から、休日の渋谷へ遊びにきたひとたちの無関心を肌で感じ、ときに冷たい視線が……という想定だったのに。なんかこれ覚えがある、あれだ、歌手のライブDVDの舞台裏映像に入ってた、出待ちの光景だ。近隣の店のスタッフが出てきているのも何度か見た(休日の昼間は忙しいだろうに)。デモだと、その場にとどまって、気が向いたひとだけシュプレヒコールに混ざって(プラカも持たず、その場にいるだけの参加者も)、危機感を持ったひとが集まっているので場の空気は真剣。パレードはメッセージも発信してるけど、祝福も含まれているからか、この場をたのしんでいいと思えた。わたしたちは応援してくれるひとたちにレスを送り、音楽に合わせて旗を振り、踊り、ときどきおしゃべりして、写真や動画を撮った。「生きてるって最高!」があふれていた。

わたしはフラッグやバルーンを揺らしつつ、プラカを広げて見せていた。日ごろから活発にデモへ出かける△ちゃんが見開きにできる厚めのクリアファイルを貸してくれて、プラカを入れたらだいぶ見せやすくなった。歩道に立っていた、同性婚実現のタオルを持ったふたりが、プラカに気づいたのか小さくジャンプしていて、わたしもプラカを高く上げて振った。プラカとわたしの顔を見てうなずくひともいた。報道のカメラマンが、プラカにしっかりズームインして撮っていった(パレードの列を俊敏にすり抜けていて忍者のようだった)。けさ起きた瞬間はプラカをあきらめようか迷ったけど、よかったな。

わたしが参加したことのあるデモには行進はなかった。車道を歩いた経験は、子どものときに強制されていた地元の祭りだけだ。毎年、へとへとに疲れて、夜や休日にやるのに保育園や学校の行事じゃないから代休もなく、男女でできることとできないことが分けられ、意義もわからなかった。練り歩くといってもきちんと整列するでもなく、生きてるわたしの選択が最高!と祝うパレードの記憶が加わって、思いがけず助けられた。


新宿二丁目のカフェ・どん浴ほか系列店のフードブースで腹ごしらえ(ローストビーフ丼もヴィーガンチリコンカンも絶品)。
△ちゃんとブースを回った。事前情報をなにも入れずに来たのだけど、大企業から自治体、大学、NPO法人、個人経営のお店など小さな団体も出店していた。
各ブースを回ると、LGBTQ+と出店者の関連性があんまり見えない場合もあって、継続的な取り組みをしているところ、当事者の声に耳を傾けようとしているところの名前を覚えて帰る。

毎年たのしみにしている、レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)のブースで、小物入れを買った。活動資金になるとのこと。

△ちゃんに連れて行ってもらった筑波大学のブースもすばらしかった。クィアについて知るための本を学生がセレクトして紹介、実物を手にとってめくることもできる。カードに展示書のおすすめポイントを書いて貼るコーナーで、クィアについての本をはじめて読んでみたい、ひと通り知ってみたいひとにはまずこれかなあと、森山至貴『LGBTを読みとく』(ちくま新書)に。

各地のレインボープライドが出店しているエリアに、地元のはままつレインボープライドを見つけて驚く。今年はじめてパレードをやるそう。地元で生まれて暮らした10代まで、自分の性的指向に苦しんではいなかったけど、誰にも言えなくて、この地域に同じようなひとがいるなんて思えなかった。結婚して子どもを産んで自動車を運転して血縁を大切にして死ぬまで地元で暮らす、以外はエラーとされる空気。保守的な価値観が力を振るいやすい地方にレインボープライドがあるのは、そこで生きるひとにとってどれだけ大きいことか。感謝をこめて、寄付も含まれるバッジを購入。


「ここにいる」と目に見えることの大きさは、思っていた以上なのかもしれない。
通勤のかばんにはままつレインボープライドのバッジ、ストリップ劇場でつかってるサコッシュにレインボー・リールでもらった手づくりのPRIDEリボンをつけた。わかるひとにだけわかる表示ではあるけど(わからないひとに伝える努力はまた別にするとして)、すれ違った誰かの支えになれば、という祈りとして。