charming records

ストリップファンが、ときどき本をつくります。

『ストリップと読むブックガイド』制作日記:9/10-13

9/10(日)

二度寝したら10時半。台風が身体にきつかった。朝イチから動くはずだった予定は仕切りなおすことにして、そうめんをゆでる。劇場にも仕事にも行かない日は、ここぞとばかりにお弁当にできない料理をつくる。
寄稿の依頼を長らくご検討くださっていた方から、うれしいお返事が届いた。ッシャ!
早めにいただいていた原稿をページのフォーマットにレイアウトしてみると、デザインに直したいところが出てくる。フォーマットをつくっている最中はサンプルテキストをつかっていてずっとしっくりこなかったのが、原稿を入れたらなにをどうすればいいかバシッとわかった。なんでだろ、言葉の鮮度? 執筆者にもチェックしていただくため、PDFに変換して送信。
執筆者には書評とあわせて、キーワードも決めてもらっている。入れる位置、書名といっしょに書評の前に置くか、本文のラストにするか迷ってたけど、後者に固めた。
家から一歩も出ないまま就寝時刻になった。今日が期限だったDr.ハインリッヒの単独ライブ配信を観そこねた。

 

9/11(月)

日名子暁『ストリップ血風録:道頓堀劇場主・矢野浩祐伝』が面白い。小倉の愚連隊、極道を経てストリップ業界入り、31歳で道劇の支配人になるんだけど、摘発と新風営法で過激なショーができなくなって、当時の業界では珍しかったカタギと手を組み、演劇を取り入れたショーで劇場の再興を図る。道劇の閉鎖後も渋谷で踊り子が出演できる小屋を立ち上げ(いまのシアターGOOみたいな感じなのかな)、60歳にして札幌道劇スタートのためにススキノに渡る。幻冬舎アウトロー文庫の書き下ろし企画でした。自伝の『俺の「道頓堀劇場」物語』との読み比べがたのしみだな。
昨夜にいただいていた原稿をレイアウトして、内容と取り上げられている本を照らし合わせ(念のため、誤字脱字などの校正をしつつ、事実誤認がないか確認しています)、執筆者にレイアウト見本を送りがてら修正の相談。いい原稿に接したときの高揚は刊行まで誰とも共有できなくて、しばらく自分ひとりで抱えつづけることになる。早くみんな読んで!と叫びたいが、いまひとりじめになっている原因もこの先みんなが読めるようにするのもあなたです。
名画座早稲田松竹で『TAR/ター』。性別、人種、あらゆる力の不均衡と差別を取り込んで、エンパワメントとは真逆の手法で徹底的に叩きのめす。原稿が一気に届きはじめたら、文フリまで映画館に行く余裕がなくなるんじゃないか。

 

9/12(火)

仕事、きつかった。関連書の内容確認をちょこっとだけやった。
井上ひさしによる、『浅草フランス座の時間』の「はじめに」がしみじみといい。ブックガイドには簡単な紹介しか載せられないので、ここで一部を引用します。

井上ひさしこまつ座 編著『浅草フランス座の時間』(文春ネスコ、2001年)


はじめに 踊り子の仕事
文/井上ひさし


 わたしたちはあらゆるものから自由でありたいとねがっています。いま生物学の最前線で流行している術語を借りていえば、わたしたちは精一杯「ゆらぎ」たいとねがっています。ところがどなたもごぞんじのように、このねがいはほとんどかなえられることはありません。それほどまではげしく自由でありたいとねがっているのに、わたしたちは四方八方から束縛されて生きてゆかねばならないのです。そこでわたしたちは、なんとかして「ゆらぎ」の余地をのこしながら、同時に必要な束縛は受け入れて生きようと思います。このことに成功すれば、束縛は協調ということばにかわるでしょう。つまりよりよく生きるということは、束縛を協調の線に押しとどめておいて、そのうえ各人がそれぞれの個性を生かしながら充分にゆらいでみせることだ、といっていいでしょう。
 右にのべたことを肉体で表現してくれるのが、たとえば踊り子なのです。彼女たちの肉体は演出家の指示や作曲家の指定したリズムや振付師が与える身振りによって四方八方から束縛されます。(…)この奴隷のような状態から抜け出すために踊り子は猛稽古をし、ついにはそれらの束縛を自分の肉体のなかに吸い込み、完全に手なづけてしまいます。そして「それらの束縛にもかかわらず、自分の個性をゆらがせてみせる」という大冒険にみごとに成功してみせるのです。彼女はそのとき束縛とうまく協調しています。だからこそ彼女の肉体は充分にゆらいで見えるのです。肉体が、人間が、そして生命が輝くのは、この一瞬です。
 わたしたちが踊り子にあこがれるのは、彼女たちが柔かい肉体と、その肉体を自在に操る技術とで、束縛を飼い馴してみせる達人だからです。同時にわたしたちは彼女たちの肉体がやがて衰えてゆき、ついに亡びてしまうことも知っています。生命が「不可逆」であることの哀しみ。それゆえにわたしたちは踊り子たちをいとおしくも思うのです。

 

9/13(水)

続・きつい業務。人間関係の不条理が降りかかる。ブックガイドの作業はできず、関係者への連絡だけ。
仕事帰りに、林海象監督『私立探偵濱マイク』シリーズの3作目『罠 THE TRAP』。映画を観ている場合ではないのかもしれない。ただし濱マイクは絶対に映画館の大きいスクリーンで観なければならなかった。2作目の『遥かな時代の階段を』には、横浜の黄金劇場とストリッパーが出てきます。

『ストリップと読むブックガイド』

2023/11/11(土)文学フリマ東京37で初売り!
内容と販売情報はこちらから

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